これからも、この先も。奇跡の一粒を届けたい

これからも、この先も。奇跡の一粒を届けたい
取材・文/阿部 薫

壽屋を代表する逸品「茜姫」。ぷっくり艶やかな完熟梅のとろける甘露にうっとりしながら、完成するまでの背景を遡ると、それはまさに奇跡の出会いでした。
「至福の一粒を届けたい」
職人とも言えるような技能を必要とし、非常に地道な作業を繰り返し繋ぎ続けるつくり手の想いをたどります。

とにかく丁寧に 一粒に向き合う心意気

 今年も茜姫が美しく漬けあがりました。丸々とした大きな実、舌ざわり滑らかな皮から溢れ出る、蜜のような果肉。この茜姫の特徴を生み出すため、節田梅の実はぎりぎりまで樹の上で完熟。黄色に色付いたところを収穫し、翌日には工場へ。もともと皮が柔らかくデリケートな節田梅が短い期間一斉に工場に運びこまれるため、一人ひとり気を配りながら、丁寧に袋に入れ分け、砂糖とりんご酢、ほんの少しの塩のみで漬け込んでいきます。完熟した節田梅と一言で言っても、自然の中で育った実は、陽の当たり方や場所によって、形も大きさも完熟度合いも異なり、一粒として同じものはありません。10月に入ると一番早いものが漬け上がりますが、その直前には、理想の味に調整し、均一化を促すためのさらなる工程も。ひとつの工程を経るごとに皮が破れてしまう恐れがありますが、味の追求に欠かせない作業です。
 漬けあがった実を袋詰めする作業も容易ではありません。手に触れただけで破れてしまうほどの柔らかな皮をまとった茜姫を一粒一粒選別し、小さな袋へ。「茜姫」として製品化されるのは、わずか40%ほどでした。同じ梅は一つとしてない中で食す人との出会いは、奇跡をも超える感動の瞬間でした。

希少だからこその価値。そして、美味しさを余すことなくいただく

 どの作業においても繊細な「茜姫」。効率化、生産性がもとめられる現代において、なぜこんなにも気の遠くなるようなモノづくりをしているのか。食品添加物は一切使用せず、完熟した梅の自然の良さを十分に引き出すための工程から導き出された製品化率は、わずか約40%。その事実を知った方には呆れられるかもしれません。つくり方も味付けも、とてもシンプルでありながら、いかに美味しく、いかに美しく仕上げられるか。つくり手たちは体調や精神面を平常に保ちながら日々向き合い、研究や工夫を繰り返しながら努力を続けているのです。その真面目さ、勤勉さ、心意気と共に、大切な方へのギフトや、自分へのご褒美としてお使いいただければと思います。
 「茜姫」として認められなかった実も、もちろん味は確か。大事につくりあげたものを余すことなく楽しんでいただくため「みくずれ品」「つぼみ」「ジャム」としてお得に販売しています。また漬け込んだ際に出た梅シロップは「梅しづく」「梅え酢」とスタイルを変え、調味料・飲み物としての活用も。梅シロップは定番のお漬物「梅たくあん」の材料にも使用されています。

「茜姫」を届け続ける、つくり手の使命

東根市周辺で栽培される稀少な節田梅からつくられた「茜姫」は、その年によっても時期は異なりますが、毎年次年度産の漬け上がりを待たずに完売してしまいます。特に今年2022年は収穫量が少なかったため、早まる可能性も。香りが強くもっちりとした南高梅で漬け込まれたものも好まれますが、節田梅の上質な果肉や、芳醇な甘味と酸味は、変わらず絶大な人気です。今、節田梅の生産者は高齢化が進んでおり、摘果が忙しくなる時期には壽屋のスタッフたちがお手伝いに伺うことも。加えて収量を増やすため、若手果樹農家へ栽培依頼をしていますが、まだまだ本格的な収穫には辿りついていません。さらには近年の異常気象による影響が。様々な課題を抱えながらも、やっぱり私たちはこの奇跡の一粒をしっかりと残していきたい。時代は変わっても、変えられない「茜姫」の魅力を壽屋の宝として、求めてくださるお客様と一緒にこれからも守り続けて参ります。