2019年2月20日

やまがたで醸す女性たち

やまがたで醸す女性たち

山形に産まれて山形の地で醸す・・・。
長年に渡り壽屋でも長年に渡りお付き合いいただいております、お隣河北町の和田酒造さんと西川町のトラヤワイナリーさん。先代からの確かな技術力をしっかりと受け継ぐ同世代の女性2人。家業を継いだ経緯や酒造りについて、お話を伺いました。
聞き手/横尾友栄
まずは、それぞれの蔵の歴史を教えてください。
和田酒造・和田弥寿子さん
1797年江戸中期に、初代 和田幸右衛門が河北町谷地にて創業しました。現在は8代目和田多聞です。創業以来他県より蔵人を迎えたことはなく、地元の杜氏が地元の原料を用い、地元の恵みを地元に還元することを念頭におき、酒造りを行なっています。
月山トラヤワイナリー・大泉奈緒子さん
寒河江市にある日本酒の蔵元「千代寿」が昭和47年から地元寒河江市の特産品「さくらんぼ」を原料としたワイン作りを始めたのがきっかけ。昭和57年、西川町にて月山トラヤワイナリーとして本格的にブドウを原料としたワイン作りを始めました。
横尾
家業を継いだ経緯はどのようなものでしたか?
和田
酒蔵に一人っ子として生まれ、酒蔵の入口と家の玄関が一緒で、常に酒造りは身近な存在でした。夜になると、家族だけで麹や醪の管理をするため、小さいころから夜タンクにのぼって発酵中の泡を消したり、酒造りのお手伝いをすることが生活の一部でした。家族全員で一つの目標について話し合ったりする時間は、大人の仲間入りをしているようで、とても嬉しかったのを覚えています。とはいえ、自分の興味のあることと家業の間で決めた進学先は、東京農工大学でした。そこで、微生物の基礎をキッチリ教えて頂きました。その後、山形県工業技術センターに勤務し、山形の酒について深く学ぶことで、家業の酒造りについての想いが強くなりました。
大泉
兄(現取締役社長)が跡継ぎのため、私自身は家業を継ぐということを意識したことが全くなく、好きなことをしていたら今の仕事に就いていたという感じです。
小さいころから土いじりが好きで食べ物や農業に興味があり、大学のころには自分で農業をやりたいという気持ちが強くなっていました。卒業後はドイツのファームステイしたことから、帰国後は自分でブドウを栽培したいと思い実家であるワイナリーに入社しました。

和田酒造・和田弥寿子さん
1974年3月9日生まれ
東京農工大学大学院農学研究科農芸化学専攻修了
1998年(独)酒類総合研究所研修
1999年山形県工業技術センター勤務
2003年和田酒造 研究開発担当
2016年より和田酒造 研究開発兼役員
家族構成/夫、娘2人、息子1人、父、母 
趣味/書道・ピアノ・料理・子どもと遊ぶこと

月山トラヤワイナリー・大泉奈緒子さん
1974年8月15日生まれ
明治大学農学部農学科農学専修卒業
1997年ドイツボルゲン町の有機栽培農家にて農業研修
1998年月山トラヤワイナリー入社
   (独)酒類総合研究所研修
2012年月山トラヤワイナリー取締役工場長に就任
家族構成/夫、息子1人、娘1人
趣味/読書・お菓子作り・園芸
横尾
壽屋も同様、商品を製造するにあたり、常に品質を向上を目指しています。具体的にはどのような努力があるのかお聞かせください。
和田
原料の95%は山形県内、中でも米造りを見守りことが出来る地元産には強い愛着をもっております。米の生産者に直接会い話をすることで、その方の人柄が酒に現れるような気がしています。また、米が育った気候を知っているため酒米の性質を把握することが出来、酒造りに生かすことができます。私と主人は同じ大学で微生物について学んできたので、酒蔵で使用する酵母にはこだわりがあります。自社の培養室で酵母を培養し、米や酒質によって変えているので、酒蔵の独自の香や味わいが醸されていると思います。分析器は最新のものを導入し、迅速に醪の変化に対応できるようにしています。最近では、貯蔵中のお酒の鮮度を保つために、お酒の中の酸素を除去し酸化による劣化を防ぐ装置を導入し、一年を通じてフレッシュな味わいを楽しんでいただけるようになりました。。
大泉
「ワイン造りはブドウ造り」と言われるくらい、おいしいワインを作るには良質のブドウが不可欠です。ワインはブドウ100%で作られ、水は一切入りません。ですから原料ブドウは契約栽培と自社栽培で厳選したものを使用しています。ワインのおいしさはブドウの皮と実の間に詰まっているので、粒が小さくバラっとしているものが良いと言われます。そのため堆肥を入れて土造りをしたり、病気や腐れがないように手入れしたり、収量制限をしたりと手間暇をかけてよいブドウが出来るように努力しています。しかしブドウ造りとは自然との闘いでもあり、冷夏や猛暑など天候に悩まされることも多く苦労が絶えません。
ブドウは生ものなので収穫したら冷蔵庫で冷やし、すぐに仕込みを行います。一度冷やすことでその後の酸化を防ぎ、処理がしやすくなります。仕込み前には原料を選果し不良果や未熟果を取り除きより良い原料だけで仕込みを行います。
横尾
その中で、変化していく技術・守り続ける技術もあるのでは?と思うのですが…
和田
最新の分析器を導入しつつも、何より精密なのは、人の感覚だと思っています。どんなに精密な機械でも人にはかないません。分析や瓶詰めなどの作業は機械で行う方が高品質化に繋がりますが、お米を洗う・洗米という作業や、麹を作る・製麹という作業は、やはり人の五感だ大切だと思います。だからこそ、実際に触り、香りをかぎ、口に含んで味わうなど、数値では表せない感覚というものは大事にしていきたいと思っています。
変わらない伝統の味を守りながら、時代に合わせたお酒を醸していくことも、醗酵に携わるものの使命なのかなと感じますし、挑戦し続けたいと思います。


自社の培養室で酵母を培養中の和田さん

大泉
ワインはブドウによって味わいが決まってしまうところが大きく、私たちはその発酵の温度を管理したり、味わいや香りが保たれるようにちょっとだけお手伝いをしているという気持ちでいます。甘口か辛口か、軽い味わいか重めの味わいにするかなど、ブドウの特徴を生かしどんな味わいのワインにするかによって、搾汁の強さや時間、酵母の選択、発酵温度、オリ引きのタイミングなどすべてが変わってきます。毎年毎年良かったところ、悪かったところを次の年に生かせるようにしていますが、その年の原料によっても違ってくるのでまだまだ勉強していかなければ、と思っています。
横尾
同じ酒造りでも、日本酒は年によって作柄の異なるお米を、求める味に近づけるための工夫を行い、ワインは、その年のぶどうの特徴を活かし切るという所に大きな違いがあるのですね。壽屋の茜姫も年によっての作柄の違いに基づいて製造・販売しておりますし、節田梅と南高梅との異なる特徴を生かして漬け込みを行っております。お客さまに理解していただけるように分かりやすい説明も重要と考えております。お客さまとへの説明といえば、トラヤワイナリーさんでは、ショップをオープンしたと伺っていますが…
大泉
ワイナリーに併設しているショップを改装して丸2年になります。築160年のとても古い建物なので維持をするのは大変ですが、来店していただいたお客様が口々に懐かしい、とおっしゃって下さるのでやはりこのまま残しておきたいと強く思います。週末には実家の両親が店番にきてくれるので安心してお願いしています。工場見学の依頼も増え、直接お客様と関われる機会が増え、トラヤワインを知って頂けるのが嬉しいです。


ブドウを収穫中の大泉さん

横尾
和田酒造さんは、本当に酒蔵とご自宅の玄関がひとつ、仕事場と家庭とがご一緒なのですよね?どのような感じなのですか?
大泉
今は3人の子育てをしながら、仕事をしています。冬の寒い夜、子供の布団を掛け直しながら、酒蔵の中の醪は寒くないだろうか?と考えたりします。夏の熱い夜は、子供の寝顔を見ながら、蔵で熟成されているお酒を想ったりします。私にとって、お酒の仕事をするという事は子育てと同じ感覚で、いつも当たり前のように気になる事です。特別「さぁ仕事するよ!」とスイッチを入れる感覚はなく、いつも私の傍にある日常です。子育てはいつか終わってしまうのかなと、ちょっと寂しくなりますが。だから、どちらも私なりのペースで、私だから出来ることを、家族や周りの方の協力も得ながら大切にしていきたい­と思っています。冬の朝、蒸米の湯気が上がる中を蔵人さんたちに見送られ、子供たちは登校していきます。それは私が子供の頃に見ていた風景と全く同じで。そんな風景を守っていくことも私の役目なのかなと、子供が生まれてから感じるようになりました。
横尾
商品とお客様に真摯に向き合う酒造りの姿…大泉さん和田さんの生き方がしっかり反映された品であることも両蔵の高品質の要因であるということを強く感じることができました。

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