2012年10月15日

「発酵」という伝統と文化。

昔から保存食として日本の食文化を支え、
また近ごろ注目をあつめる「発酵食品」について、
漬物師範に語ってもらいました。

地域からうまれる発酵文化。

発酵というのは、微生物の特殊な菌を働かせて別の品を作ることを総称していう。麹を主に使うのが醤油や味噌の主な発酵。地域性もあるが、主に東北では味噌は大豆に麹菌、醤油は大豆に小麦と麹菌を使う。同じ大豆を使っていても菌の働きによって全く別のものが出来上がるというのが発酵の作用である。
漬物の場合は、ほとんどが乳酸発酵。野菜と塩を混ぜ込むことによって、乳酸菌が活性化して乳酸発酵が起こり、生の野菜と全く違う状態の「漬物」というものになる。乳酸発酵によって味も酸っぱくなる。その分かりやすい例が「ぺそら漬」だ。なすを塩水に漬けて乳酸発酵させ、柔らかくして酸味を出したのがぺそら漬だが、腐敗につながる酪酸菌と乳酸菌とのせめぎ合いで作られるものでもある。
山形県の北村山地方にその昔から伝わるこのぺそら漬の製法、驚いたことに、ドイツのザワークラウト、キャベツの酢漬けも同じ製法が取られている。ドイツから日本に伝わった、もしくはその逆と考えるよりは、それぞれの地域で自然発生的に見いだされた発酵技術といえるのではないだろうか。


発酵文化について語る漬物師範(横尾昭男)。

ふたつの発酵食品がまた新たな食品となる。

壽屋では、しっかりと乳酸発酵をさせた古漬を作り続けているが、別々に発酵させて作った物同士を合わせ、また新たな物を作り出すというのも漬物の大きな特徴である。例えば、醤油を使った古漬。野菜をひと夏しっかり乳酸発酵させて漬け込み、それをじっくり発酵させて作り出した醤油に漬け込む。それぞれ別の発酵をしたもの同士が合わさりひとつの食品となる。二種類の発酵食品の融合そして熟成によって作りだされた食感と味わいが古漬。こう考えるとなんとも奥の深い食べ物とも言えるのではないだろうか。同じ製法で作られているのが新製品のキムチたくあん。本干しにした大根を一年間ぬかに漬けてしっかり乳酸発酵させた魚醤で、青魚を発酵させて作ったジャンに漬け込む。発酵したもの同士を合わせている。


当店の新発売のキムチたくあん。発酵をしたもの同士が合わさり、新たな食品を作り出している。

発酵食品と食品添加物。

現在の食品表示では、発酵に関する規定がなく、消費者に誤解をあたえる部分も多いように思える。昔から伝わる「発酵」という手間と時間を省き、そのかわりに味や見た目を補うために使用されるのが食品添加物である。例えば醤油の場合は、色を補うために、カラメル色素、味を補うためにアミノ酸等の食品添加物を使用する。
本当の発酵で作り出された味に化学の力で作り出された味がかなわないであろうことは容易に想像が出来るが、残念ながらその食品添加物、特に少々刺激的に作られた化学調味料の味に現代人の舌が慣れさせられてしまっていることも事実かもしれない。逆にその刺激がないとおいしいと感じなくなってしまっている部分も多いように感じる。発酵文化が基本となるせっかくの日本人の食生活において、これは非常に残念なことといえるのではないだろうか。

次世代に伝えるべき発酵文化。

「発酵」という言葉が現在ブーム的に使用されている。発酵とは食べ物を作り上げるための製法のひとつであり、保存食を作り出すために菌の働きをうまく取入れたというのが本来の所である。有史以前から人間が生きて行くために、飢餓との戦いの中で工夫をこらして作りあげた保存食文化の賜物とも言える。
壽屋では、この「発酵」の伝統と文化をきっちりと受け継ぎ、漬物をはじめとする食品を作り出している。この「発酵」という食文化を次世代に伝えていくことが使命と考える。もちろん、食品添加物は一切使用していない。「発酵」の手間を惜しむための食品添加物の使用や食品表示について、多くの方々にさらに正しく知っていただきたいと願いつつ、ごまかしのない食品を作り続けていきたい。