2015年6月15日

受け継がれる 山形梅干の伝統の漬け方。

壽屋のある山形県東根市をはじめとして、山形県内陸地方は「東の山形、西の京都」と言われるほど昔から漬物文化が独自に発達してきた地方です。
そのひとつとして山形梅干も長きに渡り受け継がれてきましたが、現在では、自宅で漬けるお母さん達が少なくなったのも事実…。きっちりと伝承されてきた山形梅干を求めて、漬物名人の石垣さんを訪ねました。

山形梅干の伝統的な漬け方。

山形梅干の作り方は、完熟した梅と同量のしそ葉(茎つき)を10から15%程度の塩分で漬け込みます。1週間塩漬けにした梅を土用の晴天の日に三日間天日干しにします。たっぷりのしそ葉は丁寧に色出しをして、天日干しした後の梅を漬け込みます。その際、梅酢を取らずに全量をしそ葉とともに漬け込み、漬け汁を切らさないようにします。山形梅干の漬け方の大きな特徴として、①いつも漬け汁に浸してあること②しそ葉を大量に使用することが挙げられます。このことから出来上がりの特徴は①色が赤くてとても鮮やかな梅干であること②しその香りを強く感じることができ、食べやすいこと③脱塩を一切していないので、梅の成分がそのまま残り、成分をまるごと摂取することができるということにつながります。

漬物名人石垣さんが漬ける絶品梅干。

漬物名人の石垣愛子さん宅を訪れたのは4月下旬。「去年の梅干はなかなか評判がよくって、残りわずかなのよ」と見せてくれたのは、毎年梅干を漬け込むというプラスチック製の桶。「このタッパーを使うと減塩になるって聞いて使ってるんだ」というタッパーの上の重しを外すと、ふわっとしその香りが漂い、奥からしそ葉の蓋が現れました。愛子さんがビニールの手袋を付けて、しそ葉の蓋を動かすと、丸々とした鮮やかな赤色の梅干が顔をのぞかせました。


「このタッパーを使うと減塩になるって聞いて使ってるんだ」と
自慢の梅干を見せてくれた漬物名人の石垣さん。

愛子さんが梅干を本格的に漬け始めたのは25年ほど前から。それまではカビが出てしまったりして、なかなかうまくいかずにいましたが、梅干作りが得意なお姉さんから教えてもらい、さらに自分でも工夫を重ねているそうです。一度に漬け込む量は毎年4キロ前後。きっちり計量をすることが第一のポイントだそうです。
漬け込みから1ケ月ほどで漬け汁がじわ~と上がってくる年は、漬け込みがうまくいく年なんだそう。漬け込んでから汁がたっぷりあがるかどうかが一番気を揉むところなんだそうです。
気になるお味はというと、しその香りに包まれて、独特の酸っぱ味が鼻に抜け、さらに酸っぱ味としょっぱ味が口の中に広がり、口の中を漂います。無意識に白いごはんを探している自分がいました。ここにごはんを放り込んだら、ごはんの甘みをとても心地よく感じられることでしょう!

そして受け継がれる味。

金沢に嫁いだ愛子さんの娘さんにもお話を伺う機会がありました。娘さんもご自分で梅干を漬けているんだそう。お母さんから伺った方法に、自分で調べた方法を加えつつ、いつの頃からか漬けるようになったということです。お母さんの梅干とご自分の梅干ではどちらがおいしいですか?と伺うと「五分五分かな?あははは」と応えてくださいました。聞けば、旦那さまのお母さんも梅干を漬けていらしたそうで、「その影響もあるかも…」生まれた家庭と旦那さまの育った家庭の両方をきっちりと引き継ぐ現代のお嫁さんの姿が見え隠れしました。
「やっぱり毎年毎年、梅の出来た状況も違うし、分量はきっちり計っても天候も違うし、奥が深い難しいものだね~」としみじみ語る愛子さん。ひとつの桶の中に入っている4キロ分の梅のどれひとつを取っても同じものはないし、それ以上に同じ天候の年もないし、同じ状況はひとつもなく、毎年、毎回が試行錯誤の連続だそう。
大きな大きな自然の中の小さな産物ともいえる梅を相手に行う、細やかな人間の手作業。山形の貧しい土地柄の保存食として受け継がれてきた梅干ですが、環境や道具を少しづつ変えながらも、じっくりとこの小さな産物と向き合って梅干を作り上げる行為は、スピード化、数値化された現在の世の中において、穏やかさや豊かさを表すものとして受け継がれていることを感じることができました。